大聖堂訪問記

司祭 ヨハネ 芳我秀一

 2月8日から九日間に渡ってベルギー、フランスを訪問する機会が与えられた。
  ベルギーは九州ほどの広さで人口は約一千万人。その中心がかつて毛織物工業や交易で栄えた首都ブリュッセルで約百万人が住んでいる。言語は北部はオランダ語、南部はフランス語でブリュッセルだけはフランス・オランダ語が併用されている。その市街の中心にあるのがサン・ミッシェル大聖堂である。サン・ミッシェルとは大天使ミカエルのことで、この大聖堂は13世紀のゴシック様式建築で完成までに三百年の歳月を要したと言われている。また旧市街地の中心にある世界遺産として知られグランプラスと呼ばれる大広場は周囲をゴシック様式やバロック様式のギルドハウスで囲まれているが、特に15世紀に建てられたブリュッセルを象徴する市庁舎の96メートルの尖塔の先には聖ミカエル像が飾られ、市内を見下ろしている。将に聖ミカエルがブリュッセルの守護天使であった。
  その次に訪問したのがフランダースの犬で知られるアントワープの街である。アントワープはブリュッセルから北へ約50qの所にあって、バロック芸術の都、ダイヤモンド取引、ファッションの街として知られるベルギー第2の都市であり、世界最大の港町でもある。この街の中心にあるのがノートルダム大聖堂である。ノートルダムとは「我らの貴婦人」という意味で聖母マリアを意味している。だからノートルダムの名を持つ大聖堂は至る所に存在する。

〈画家ルーベンス〉
  さてこの大聖堂の特色はベルギーが生んだバロック時代最大の画家ルーベンス(1577-1640)の描いた「キリストの降架」「キリストの昇架」といった名画が展示されていることである。「キリストの降架」は三枚の絵によって構成されている。中央の絵には十字架から傷付いたイエス様を男女八人が丁重に降ろそうとする姿が描かれているが、特に赤い服を着た男性がイエス様の体を下から抱きかかえている。一方、右側の絵には赤ちゃんイエス様を抱きかかえる赤い服を着たシメオン。左側の絵には妊娠中の赤い服を着たマリア様が描かれている。つまり、これら三枚の絵に込められた共通の主題は「キリストを抱きかかえる者」であった。つまり、これらの絵は人間がお互いに助け合い、支え合って生きる者であることを示している。特に、傷付き弱い立場にある人を思いやって支えることは傷付いたキリストを支えることなのである。

〈悪魔の誘惑〉
  今年も大斎節を迎えた。イエス様は荒野で四十日間断食した後、悪魔から誘惑を受けられた。「神の子なら、この石にパンになるように命じたらどうだ」と。つまり悪魔は「イエス様、あんたは神の子でしょう。神の子なら自分の力で石をパンに変えて自分も、また飢えている人すらも助けたらどうですか。何でも自分一人の力で出来るでしょう」と誘惑する。それに対してイエス様は「人はパンだけで生きる者ではない」と答えられた。つまり神の子とは自分の背後でいつも愛し見守っておられる方と共に生きる者であって、決して自分一人で生きる者ではない。共に愛し合い支える者がいてこそ人は生きる気力が沸いてくるのであって、決して目先の食べ物だけの問題ではないのである。 ところで私たちも日々どのように生きているのか、この季節に見つめ直したいものである。


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