大聖堂訪問記W

司祭 ヨハネ 芳我秀一

 大聖堂訪問記も今回が最後になりました。ベルギー及びフランスを旅する中で最も興味ある訪問地の一つがノルマンディー地方南部の海に浮かぶ神秘の修道院「モン・サン・ミッシェル (Mont-Saint-Michel)」です。

   〈歴 史〉
 はるか昔、見渡す限り低地の広がるこの地域で、高さわずか80メートルほどの側面の切り立った花崗岩を岩盤とする小高い丘がありました。その周辺は潮の干満の差が12メートルを超える湾になっていて、干潮の時、この小高い丘は陸地と繋がって歩いて渡ることが出来ますが、潮が満ち始めると海水は数時間の内に平地を飲み込んで小高い丘の周囲は海となり人は歩いて渡ることが出来ません。時として島となる小高い丘の上に世界遺産であるモンサンミッシェルは建っています。そしてその高さは、海面から修道院付属の教会の尖塔まで170メートルにも達しています。
 伝説によると西暦708年この地方を監督していたオベール司教は夢の中で大天使ミカエルから「この岩山に聖堂を建てよ」とのみ告げを受けたのですが、悪魔のいたずらと思い、再び夢を見たにもかかわらず何もしないでいたのです。しかし、大天使も三度目には堪忍袋の緒が切れて、オベール司教の頭に指を突っ込んで強く命じると、オベールは稲妻が脳天を走る夢を見たのです。翌日、オベール司教は自分の頭に手を置くと脳天に穴が開いていることに気づいて愕然とし大天使ミカエルのお告げが本物であると確信して、ここに礼拝堂を作ったと云われています。さらに西暦966年にはノルマンディー公リチャード1世がベネディクト会の修道院をこの丘の上に建て、これが増改築を重ねるうちに13世紀にはほぼ現在のような形になり、16世紀に完成したと云われています 〈コミュニケーションの欠如〉 ところで当地には現在も穴の開いた頭蓋骨が残されていて、大天使ミカエルによって穴を開けられたオベール司教のものだと云われていますが、ここまで痛い思いをしないと大天使の声が信じられなかったのでしょうか。人間は如何に他者の言葉を注意深く聞くことが出来ず、また相手を理解できないかということです。コミュニケーションの欠如は現代世界においても深刻な問題です。どうすれば私たちは心を開いて会話をし、相手の異なる考えや思いを理解することが出来るのでしょうか。

  〈聖霊なる神の働き〉
 今年も聖霊降臨日を迎えます。キリストが昇天した後、弟子たちが一つになって集まっていると、聖霊なる神が降り、一人一人の上にとどまりました。「すると、一同は聖霊に満たされ、霊が語らせるままに、ほかの国々の言葉で話し出した。」(使徒言行録2章4節)のです。つまり聖霊なる神が働く時、人は全ての人々に理解できる言葉でコミュニケーションをとることが出来ると云うことです。そして言葉が通じると云うことは、相手の異なる考えや気持ちを理解できて信頼が生まれると云うことです。それによって人は決して自分が独りぼっちではなく、多くの人々に愛され支えられていることに気づきます。ですから互いに理解し合う努力をすることが重要です。そして復活された後も裏切った弟子たちを赦して愛し続けておられたキリストが、現代に生きる私たちにも語りかけ、愛し導いていて下さっていることを知ることができるのは将に聖霊なる神の働きなのです。


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